沖縄から学んだこと

沖縄から学んだこと The Lesson of Okinawa
   リサ・パーカー(API事務局長)  1946年、『沖縄の人々(The
Okinawan)』という教育映画が全国的な注目を浴びました。小児科医をはじめとする多くの専門家や学生たちがこの映画を鑑賞しています。製作されたのは第二次世界大戦中で、アメリカの軍医として沖縄に派遣されていたジェームズ・C・マロニー中佐とJ・J・キャミサ中佐による作品です。
 舞台は第二次大戦中の沖縄島。マロニーと、その上官J・J・キャミサは、沖縄の人々の窮易な精神力に目を見はりました。「沖縄島では、精神を病む市民はめったに見かけない」ことに、マロニーは気づいたのです。
 「戦前、この島には精神病院もなければ、精神科医もいませんでした。人口が40万にも達しようという島なのに。西欧諸国では、病院の総ベッド数の5割以上が精神病患者に占められています。それにくらべて、沖縄島で見かけた精神病患者の数は、考えられないほど少なかったのです。これほど激しい爆撃を受けて、家や作物をクい、一家を皆殺しにされながらも、精神的に安定しているという事タには、驚くばかりでした」
 この現象にたいするマロニーの解゚が、映画のテーマでした。
「……その理由は、もしかするとこういうことなのではないかと思います。まず第一に、沖縄の人たちが生まれつきアメリカ人より健康だとは考えられません……というより、この精神的な強さは、沖縄のすばらしい子育てに端を発しているのではないかと思うのです。沖縄の子どもたちは、とてもよく面倒を見てもらっています」
 映画の上映中、マロニーは、沖縄の人たちがタ践する「大らかな子育て」について、たびたび口にしています。そして、沖縄の母親たちがタ践するおおらかな子育てこそが、精神的な安定を築き上げているのではないかという結論に達しました。
 沖縄で生まれた赤ちゃんは、お腹がすいたときや、恐怖を感じたとき、いつでもおっぱいを与えられます。怖がっている赤ちゃんにおっぱいを与えるのは、じつは大切なことなのです。赤ちゃんの気持ちを落ち着かせ、不安をやわらげることができるからです。赤ちゃんはすっかり安心し、自分は母親の力で守られている、と試ゥ信を持つことができます。そうしたことから、精神は健康的に円熟していくものなのです。
 生まれたばかりのこの時期、恐怖がなかなかぬぐい去れないと、感情的な発達がゆがめられてしまうことがあります。怖いのにいつまでも放っておかれた子どもは、外の世界にさらに不安を感じるようになり、安心できず、母親の力で守られているという試自信を失ってしまいます。そのため、神経質な人間へと成長してしまいます。
 沖縄では赤ちゃんが生まれると、お母さんがかかりきりになります。「赤ちゃんは生まれて1時間もすればおっぱいを与えられます。お腹を満たすためだけでなく、恐怖を鎮めるためでもあります。それが2歳になるまでつづきます」。お母さんは、「初期の欲求不満」を防ぐためなら、あらゆる努力を惜しみません。なぜそこまでするのかといえば、授乳期の赤ちゃんが欲求不満をおぼえると、さまざまな胃腸障害につながる危険があると考えられているからです。たとえば消化性凋∞や過敏性大腸症候群、そして下痢や便秘など。だからお母さんたちは、めったに赤ちゃんのもとを離れません。
 ふつう、子どもが2歳になると、お姉さんが世話を引きつぎます。お姉さんがいない場合は、お兄さんにその責任がゆだねられます。5歳になると、子どもはもう精神的に成熟したと見なされ、学校に入る準備をはじめます。学校へ行くことにたいして抵抗する子どもは、いたとしてもごくわずかです。学校へは、それまで世話をしてくれたお姉さんやお兄さんと一緒に行くのですから。
 マロニーは、沖縄ではめったに体罰を目にしなかったと語っています。たとえば子どもが貴重な品物をこわしてしまったとしても、そんな幼い子どもの手の届くところに貴重品をおいていたほうが悪い、とお母さんは自分を責めるのです。
 1946年にこのふたりの先見の明のある医師が発見したもの――それは、いまわたしたちが、「アタッチメント・ペアレンティング」と呼ぶものの本ソだったのです。アタッチメント・ペアレンティングとは、つまり敏感に、そして思いやりをもって、子どもたちの要望に応える子育てです。
 この映画の公開と同じころ、ジョン・ボールビーをはじめとする研究チームによってアタッチメント(愛着)についての研究が世に紹介されるようになりました。そしてマロニー医師とキャミサ医師は、自分たちが偶然、人類文明のかなめ石を発見していたことに気づいたのです。沖縄で学んだことは、アタッチメント(愛着)の研究から得られた結果と一致します。
 子どもを両親の手できちんと世話し、導けば、その子の未来は開け、強い精神力が培われるということが、わかったのです。マロニー医師はこう語っています。
「わたしが沖縄で目にしたことに、きちんとした根拠があるのなら、いずれ、世界平和を保つのも夢ではなくなるかもしれません」
リサ・パーカー:アタッチメント・ペアレンティング・インターナショナル事務局長 Lysa Parker, M.S. : API Founder &
Executive Director
カリフォルニア州とテネシー州の中学校で特殊教育の教師として20年間つとめたのち、1994年に、バーバラ・ニコルソンとともに、APIを設立。ラ・レーチェ・リーグのボランティアとして、母乳育児のサポートグループのリーダーを5年間つとめた経験がある。
Lysa Parker is Executive Director of Attachment Parenting International, which
she co-founded with Barbara Nicholson in 1994. Parker holds a masters degree in
Human Development and Family Studies. She has devoted her career to promoting
the philosophy of Attachment Parenting around the world. Parker brings many
years of experience as an educator, mother and advocate to her work with API.
Parker worked with multiple-handicapped and learning disabled children for
twenty years as a special education teacher in Alabama, California and
Tennessee. As a volunteer with La Leche League International for five years,
Parker facilitated support group meetings and consulted with mothers about
breastfeeding. She is the mother of two sons and a step-daughter, as well as the
grandmother of twins. 資料: Dillaway, Newton. The Lesson of Okinawa. Wakefield,
MA:Montrose Press, 1947. Available from The New York Public Library, Call Number
JLC 78-304 Psychiatry. Vol. 8, No. 4, November 1945, Psychiatry Quarterly,
October 1946.