自分も生まれる旅 vol.10 赤ちゃん。というのが、しっくりこない日

#2018

vol.10
赤ちゃん。と言うのが、しっくりこない日



 


 [写真 ・ことば] 有砂山




赤ちゃん。
と言うのが、しっくりこない日があります。
ことに、生まれた、そのときが、そうなのです。

たしかに、
そのからだは、
古ぼけたところがどこにもなくて、
ときに、なんともいえない赤の色に
見とれてしまうのですけれど。
でも、たとえば、
「生まれたての人」と言わないと、
落ち着かないような気持ちになるのです。

生まれたての人の、目を見たとき、
思いました。

もしかしたら、
なにもかも、もう、わかっている。

ただ、それを語る地上の術を持ち合わせていない。

それだけのことかもしれない。

どちらが見守られているのか、
よくわからない、そのようなまなざしです。

けれど。
生まれて6ヶ月ぐらい、でしょうか、
公園や電車ですれ違うようになるころには、
そのまなざしは、いつのまにか、消えている。

だからといって、
生まれたてのまなざしが教えてくれたこと、
が消えたわけではないのですけれど。

いつもの日々の中にいるというのに、
どこか、彼方へ届いているような目を、
静かに見つめる、
そのような時間が、
忘れ形見のような写真の中だけじゃなく、
未来のごくフツーのごくフツーの日々の中に
残るでしょうか。

今どきの私たちは、もしかしたら、
ヒトという生きものが生まれてくる、その気配に、
思いのほか、
触れることなく、
生きているかもしれません。



#お産の写真は、会報バックナンバー・「自分も生まれる旅とノムラノピアノ」などでご覧いただけます。
有砂山 ゆささん 

2009年、助産院で子どもを産み、
以来、産むこと・生まれることについて、私感を書きはじめる。
助産師さん、妊産婦さんの協力により、お産の立ち会いも経験し、
産むこと・生まれることの味わいが導いてくれるもろもろについて、
私感を言葉と写真で綴る「自分も生まれる旅」を試みる。
NPO法人自然育児友の会会報に連載(ウェブ版 https://shizen-ikuji.org/blog/tabi/)。
東京藝術大学美術学部卒業。
著書「お産を楽しむ本 どこで産む人でも知っておきたい野性のみがき方」(共著、農文協)。

「生まれるとか死ぬということは、
それぞれの日常の中でしみじみと抱きしめるようなものだ、
と思うのですけれど、
いつのまにか、生まれることは死ぬことよりも遠くなってしまったような」
という思いの中、
2017年、作曲家、野村誠との試み「自分も生まれる旅とノムラノピアノ」をはじめる。

Yusasan graduated Tokyo University of the Arts. She gave birth to a child at midwifery home in 2009. Since then, she began to leave essays and photographs about various thoughts inspired by giving birth and being born. In 2014 a book Osan wo Tanoshimu Hon. Doko de Umu-hito demo Shitteokitai Yasei no Migakikata (A book for enjoying childbirth. How to feel the wild nature in yourself.), co-written by Mariko Shiino, was published by Nousangyosonbunkakyoukai (Rural Culture Association Japan). She has since been watching childbirth carefully and gently, with the help of midwives and pregnant women. Her essays and photographs, Jibun mo Umareru Tabi (Meditation on Childbirth and your Re-birth) is serialized in Shizen-ikuji Tomonokai Kaihou (Newsletter of NPO Natural Mothering ).
In one of them is written, “Someone is born. Someone dies. I’d like to embrace the moments quietly but deeply through my daily life. But, away they slip, day by day, day by day...  The moments someone is born might be felt farther than the moments someone dies as if in a remote world.”
Afraid the moments would melt in the air, she held a slide show in collaboration with piano improvisation by composer Makoto Nomura at Café Slow in 2017, Jibun mo Umareru Tabi + NOMURANOPIANO.