自分も生まれる旅とノムラノピアノのこと#1 今ごろ、どこへ

#2017 tabi _ piano

今ごろ、どこへ

ー 2017年8月19日の「自分も生まれる旅とノムラノピアノ」のこと #1ー 

[文]  有砂山
[絵]  eiko



 
ふいに。
あの夜。聞こえてきたのは、野村さんの呼吸のような声です。

すううううううううううううううふ
すううううううううううううううふ
すううううううううううううううふ
すううううううううううううううふ
すううううううふっ すううううふ

それは、もちろん、野村さんの声だったけれど。
その声をみちびいているのは、たぶんピアノだったような。

あの夜は、一枚のダブルサイズのシーツをカフェスローの壁にとめ、そして、そこに、どこかの路上、どこかの空、どこかの家、そのようなものと切り離されることのない、産む人、生まれる人、見守る人、そのまわりの、洗濯物だとか本棚だとか窓だとか・・・の写真スライドを映しました。
そして、その、映し出されたものを見ながら、野村誠さんが即興のピアノを弾いたのでした。

40分ほどのスライドが終わって。
シーツになにも映らなくなっても、野村さんはピアノを弾き続けていて。
ノムラノピアノは、とてもとても強い音で、
確かに私たちは、その音に触れていて。
けれど。その強さに触れると。
本当は、聞こえないはずの、
産むものと生まれるものだけに聞こえている音、を聴いている。
そのような気がしました。
 
そして。
音は、あっというまにどこかに行ってしまった。

それにしても。それにしても。
「ノムラノピアノは気配が残る。耳に音が残る、というお馴染みの感覚を超えて、音の続きがごくフツーの自分の日々の中に残されているような」と、私は、思っているはずなのに、それでいて「さっきのノムラノピアノに、もう触れることはない」ということに、思いのほか、まごまごしているような。
 
息子がふらっと来て、チョコレートをくれました。

8年前に生まれた息子に、私は、まだ触れられるのですね。
でも。8年前の私たちは、もう、ここには、いない。
でも。ここには、もう、いない、ということが、確かに生まれた、ということなのだろう。と、思う。

すると。
私の中の「もう、触れることはない」という、まごまごした感じは、
ちからがぬけたように、ふっと、どことなくユーモラスになって。
生まれるもののゆくえを思ってみたりします。

今ごろ、どこへ?





 

あの夜、いらしてくださって、ささえてくださって、
ありがとうございます。深謝を込めて。


* 野村誠さんが、この試みについての実感を「野村誠の作曲日記」に綴ってくださってます。
http://d.hatena.ne.jp/makotonomura/20170819
 

* 試みへの感想より


滅多に体験できないディープな世界。
(S.O.さん)


お産というのは、ひっそりとひそやかに行われることだ、
と、思いました。

自分自身が、写真の中の人々と一体化したような、
不思議な気持ちになり、静かな気持ちになり、
心が緩んだようです。

大きな流れというものに触れさせていただいたような気持ちです。
(T.Y.さん)


否定でもなく、肯定でもなく、ゾクッとしました。
まだ、この世界は私の世界ではない、と16歳の私は感じました。
でも、のちのち、自分で感じて自分で解釈したいものだ、
と、思いました。
(M.Y.さん)


体の中で、感じて、触れた!
また、来よう!
(R.M.さん)


生まれること、はぐくまれること、死にゆくこと。
そして、それらが、つながっていること。
そのどれもが、この時間に詰まっていた。

このような感度の高い時間は、尊い。
(M.S.さん)


私と家族にとって、
新しい命への向き合い方を考えるきっかけになりました。
そうして迎えた新しい命は、私の世界を広げてくれました。
(M.B.さん)


数十年も前の、自分を思い出すとは!

子どもを産んだ後、
なにか、ずっしりと不思議なほど肝がすわって、
もう、なんにもおそれることはない、と感じた、
あの自分の感覚がよみがえるとは思いませんでした。
(N.M.さん)


カフェの空間が、ぽーっと不思議な時空を旅するような、
不思議な感覚を覚えた時間でした。
(N.B.さん)


あの雨と共に忘れられない一日です。
野村誠さんのピアノの即興、すごい。
有砂山さんの写真、朗読、心に残る。
普段、見落としていることに気づくことができました。
(S.S.さん)


カフェスローの雰囲気、ピアノの音、映像、
窓から見えた稲光、あの夜のすべてが
ひとつに混ざり合っていた。
(M.Y.さん)


私は、あのとき、
生まれることができたかな?
リセットしたいと思っている日々に、意義をもらえたかな。
(匿名さん)


自分の仕事場が、助産院の隣りにあります。
たまに、赤ちゃんの声が聞こえてきます。
今日の音と写真に触れて、
とてもゼイタクなところで仕事をしているんだなぁ、
と思いました。
(M.K.さん)


映像と音楽だけ、というのは、迫るものがありますね。

家庭の中で。家族の中で。お産をする。
昔ながらの形。自然で良いなぁ、と思いました。
それが可能なお産であれば、健康であれば、です。
とても、重い内容でした。
(匿名さん)


野村さんと有砂山さんの組み合わせ、
味わい深かったです。
小学生の娘も、引き込まれていました。
(W.S.さん)


弟が生まれるのを小さい時、見ました。
その時のことを思い出しました。
(A.Y.さん)


とても満たされた気持ちです。
心の底に響いています。
(K.K.さん)


[プログラム]

産むこと・生まれることの気配をそれぞれの心と体に伝え残す試み
「自分も生まれる旅とノムラノピアノ」

写真・語り  有砂山

ピアノ  野村 誠


2017.8.19
@カフェスロー(東京 国分寺)

主催:スロースクール夜間部  共催:NPO法人自然育児友の会
 

□ 第1部
・「自分も生まれる旅」の写真スライド(約40分)に合わせた即興のピアノ演奏

□ 第2部
・トーク
・即興のピアノと朗読「8秒おっぱい」(連載「自分も生まれる旅」vol.9掲載予定)
・作曲家自身によるピアノの弾き語り「たまごをもって家出する Away from home with eggs」(向井山朋子委嘱 野村誠作曲2000)



# 有砂山 (ゆささん)
09 年、助産院で子どもを産み、以来、産むことについて、私感を書きはじめる。
現在、助産師さん、妊産婦さんの協力により、時にはお産に立ち会いながら、
産むことの味わいが導いてくれるもろもろについて、その味わいに至るもろもろについて、
私感を言葉と写真で綴る試み「自分も生まれる旅」を行い、
NPO法人自然育児友の会会報に連載中(ウェブ版https://shizen-ikuji.org/blog/tabi/)。
東京藝術大学美術学部卒業。
著書「お産を楽しむ本 どこで産む人でも知っておきたい野性のみがき方」(共著、農文協)。


# 野村 誠 (のむら まこと)
作曲家/ピアニスト
8歳より作曲を始め、京都大学理学部在学中よりライブ活動を開始。
即興/共同作曲バンドpou/fouを主宰し、SME New Artists Auditionグランプリ受賞(91年)。
British Councilの招聘で英国ヨークに滞在(94-95年)。第1回アサヒビール芸術賞受賞。
オーケストラやロックバンド、民族楽器、日用品など、様々な演奏形態や楽器のための作曲を行うほか、
ダンサーや美術家とのコラボレートやプロ/アマチュアを問わない複数の人との共同作曲法を開発・実践。
イギリス、インドネシアはじめ世界20カ国以上で作品を発表。
CD「ノムラノピアノ」(とんつーレコード)、「瓦の音楽」(淡路島アートセンター)ほか。
著書「音楽の未来を作曲する」(晶文社)ほか多数。
06年度、NHK教育テレビ「あいのて」出演、音楽監修。
現在、日本センチュリー交響楽団コミュニティプログラムディレクター。
http://www.makotonomura.net/blog/