自分も生まれる旅とノムラノピアノのこと#2 ある夜の、「たまごをもって家出する」

#2017 tabi _ piano

ある夜の、「たまごをもって家出する」

ー 2017年8月19日の「自分も生まれる旅とノムラノピアノ」のこと #2ー 

[文]  有砂山
[絵]  eiko





実は、私が、野村さんに無理を言って、8月19日、「自分も生まれる旅とノムラノピアノ」の第二部で、難曲「たまごをもって家出する Away from home with eggs 」(向井山朋子委嘱 野村誠作曲2000)を作曲家自身に弾いていただいたのですけれど、そんなお願いをするきっかけとなった初夏の夜の小さな話をひとつのメモとして残させてください。




2017年5月27日、土曜日。


「たまごをもって家出する Away from home with eggs 」

野村誠さんの作ったこの曲を、
一度、聴いてみたいと思っていて、
それなのに、グズグズしていて、
この土曜の夜、やっと、です。

私がCDプレイヤーのスイッチを押そうとすると、
そばにいた小学2年生の息子が
図鑑の付録についていた60種のカエルの鳴き声のCDをかけてほしい、
と言ってきます。
いつものことです。
「母の思い通りにはさせない」というような、
あの感じです。
だから、私は。
1曲だけ。
すぐ終わるから。
と言って、そのまま、スイッチを押しました。
本当は、1曲15分近くある曲だったのですが。

でも、息子はなにも言いませんでした。

そして、
曲が終わって、約束通り、
カエルの鳴き声のCDをかけると。

息子は、カエルの鳴き声の中で、
盆踊りのような手つき足つきで踊りながら、
さっきの曲のワンフレーズを口ずさみ始めました。

よくある話です。

子どもが、体を動かしながら、
聞いたばかりの印象深いワンフレーズを繰り返す、というのは。

だから、それほど、驚くこと、でもなく。
でも。

このまま、しばらく、
ちょっと季節はずれな、ふしぎな盆踊りを
ながめていたいような。
そんな、初夏の夜です。

でも、彼はふいに、
踊るのも、歌うのも、やめてしまって。

とても、言いにくそうに、
でも、言わずにはいられない、
という感じで、
言いました。

「僕はゆささんが死んだあと、どうやって生きていったらいいの?
ゆささんが、いつか、いなくなっちゃうのは、さびしい、けれど。
って、いうか、どうして、生きものはソンザイするんだろう?」

私は、
一字一句、間違えないように彼の言葉をメモしました。

(母の呼び方は、
 お母さんでも、ママでも、なんでも、どうぞ、と言ったら、
なぜか、名前で呼ぶ息子です。)


どうして、
ソンザイなんてことばをもう知っているの?

いえ、子どもらしさとは、愛らしさ、ではなくて。
いえ、愛らしさとは、おきまりの可愛らしさ、ではなくて。

というような私の気持ちをササッと追いこして
息子のことばが
私の体を突き抜けていって、
それで、カエルの鳴き声だけがプレイヤーから流れています。

私は思わず、彼にたずねました。

どうして、そう、思ったの?

すると、彼は。

あの音っていうか、歌っていうか。

私は、この曲の題名や背景を
息子に伝える必要はないのだと思いました。

そして。

思い出す、 のではなく、
さっきの曲の続き、のように。


私たちは、
60種のカエルの鳴き声の入ったCDを聴き続けました。





追記:

*曲の背景は、
「野村誠の作曲日記」に綴られてます。
http://d.hatena.ne.jp/makotonomura/20170819
 
8月19日の夜、いらしてくださって、ささえてくださって、
ありがとうございます。深謝を込めて。

* 試みへの感想より


滅多に体験できないディープな世界。
(S.O.さん)


お産というのは、ひっそりとひそやかに行われることだ、
と、思いました。

自分自身が、写真の中の人々と一体化したような、
不思議な気持ちになり、静かな気持ちになり、
心が緩んだようです。

大きな流れというものに触れさせていただいたような気持ちです。
(T.Y.さん)


否定でもなく、肯定でもなく、ゾクッとしました。
まだ、この世界は私の世界ではない、と16歳の私は感じました。
でも、のちのち、自分で感じて自分で解釈したいものだ、
と、思いました。
(M.Y.さん)


体の中で、感じて、触れた!
また、来よう!
(R.M.さん)


生まれること、はぐくまれること、死にゆくこと。
そして、それらが、つながっていること。
そのどれもが、この時間に詰まっていた。

このような感度の高い時間は、尊い。
(M.S.さん)


私と家族にとって、
新しい命への向き合い方を考えるきっかけになりました。
そうして迎えた新しい命は、私の世界を広げてくれました。
(M.B.さん)


数十年も前の、自分を思い出すとは!

子どもを産んだ後、
なにか、ずっしりと不思議なほど肝がすわって、
もう、なんにもおそれることはない、と感じた、
あの自分の感覚がよみがえるとは思いませんでした。
(N.M.さん)


カフェの空間が、ぽーっと不思議な時空を旅するような、
不思議な感覚を覚えた時間でした。
(N.B.さん)


あの雨と共に忘れられない一日です。
野村誠さんのピアノの即興、すごい。
有砂山さんの写真、朗読、心に残る。
普段、見落としていることに気づくことができました。
(S.S.さん)


カフェスローの雰囲気、ピアノの音、映像、
窓から見えた稲光、あの夜のすべてが
ひとつに混ざり合っていた。
(M.Y.さん)


私は、あのとき、
生まれることができたかな?
リセットしたいと思っている日々に、意義をもらえたかな。
(匿名さん)


自分の仕事場が、助産院の隣りにあります。
たまに、赤ちゃんの声が聞こえてきます。
今日の音と写真に触れて、
とてもゼイタクなところで仕事をしているんだなぁ、
と思いました。
(M.K.さん)


映像と音楽だけ、というのは、迫るものがありますね。

家庭の中で。家族の中で。お産をする。
昔ながらの形。自然で良いなぁ、と思いました。
それが可能なお産であれば、健康であれば、です。
とても、重い内容でした。
(匿名さん)


野村さんと有砂山さんの組み合わせ、
味わい深かったです。
小学生の娘も、引き込まれていました。
(W.S.さん)


弟が生まれるのを小さい時、見ました。
その時のことを思い出しました。
(A.Y.さん)


とても満たされた気持ちです。
心の底に響いています。
(K.K.さん)


[プログラム]

産むこと・生まれることの気配をそれぞれの心と体に伝え残す試み
「自分も生まれる旅とノムラノピアノ」

写真・語り  有砂山

ピアノ  野村 誠


2017.8.19
@カフェスロー(東京 国分寺)

主催:スロースクール夜間部  共催:NPO法人自然育児友の会
 

□ 第1部
・「自分も生まれる旅」の写真スライド(約40分)に合わせた即興のピアノ演奏

□ 第2部
・トーク
・即興のピアノと朗読「8秒おっぱい」(連載「自分も生まれる旅」vol.9掲載予定)
・作曲家自身によるピアノの弾き語り「たまごをもって家出する Away from home with eggs」(向井山朋子委嘱 野村誠作曲2000)



# 有砂山 (ゆささん)
09 年、助産院で子どもを産み、以来、産むことについて、私感を書きはじめる。
現在、助産師さん、妊産婦さんの協力により、時にはお産に立ち会いながら、
産むことの味わいが導いてくれるもろもろについて、その味わいに至るもろもろについて、
私感を言葉と写真で綴る試み「自分も生まれる旅」を行い、
NPO法人自然育児友の会会報に連載中(ウェブ版https://shizen-ikuji.org/blog/tabi/)。
東京藝術大学美術学部卒業。
著書「お産を楽しむ本 どこで産む人でも知っておきたい野性のみがき方」(共著、農文協)。


# 野村 誠 (のむら まこと)
作曲家/ピアニスト
8歳より作曲を始め、京都大学理学部在学中よりライブ活動を開始。
即興/共同作曲バンドpou/fouを主宰し、SME New Artists Auditionグランプリ受賞(91年)。
British Councilの招聘で英国ヨークに滞在(94-95年)。第1回アサヒビール芸術賞受賞。
オーケストラやロックバンド、民族楽器、日用品など、様々な演奏形態や楽器のための作曲を行うほか、
ダンサーや美術家とのコラボレートやプロ/アマチュアを問わない複数の人との共同作曲法を開発・実践。
イギリス、インドネシアはじめ世界20カ国以上で作品を発表。
CD「ノムラノピアノ」(とんつーレコード)、「瓦の音楽」(淡路島アートセンター)ほか。
著書「音楽の未来を作曲する」(晶文社)ほか多数。
06年度、NHK教育テレビ「あいのて」出演、音楽監修。
現在、日本センチュリー交響楽団コミュニティプログラムディレクター。
http://www.makotonomura.net/blog/