自分も生まれる旅 vol.11 繊細さの前で、私は、立ち止まったのでした

#2019

vol.11
繊細さの前で、私は、立ち止まったのでした

 


 [写真 ・ことば] 河野 有砂 *生まれたときの名前を筆名にすることにしました。(有砂山より)




繊細さの前で、
私は、立ち止まったのでした。

ある人とある人が出会った。

という、
まず、その、繊細さの前で。

それから。
その先に、生まれる時間がある。

という、
よくよくわかっていたはずのことの前で、
立ち止まってしまった。

たとえ山や海から離れたところで暮らしていた、としても。
でも。
私たちも、やはり、生きもの、で。
ひそやかな自然が、私たちの中にもある、
と思いました。

「有砂さんは、空気のようだったから。
ぜひ、また、お産に立ち会ってください」

と声をかけていただいても。

「はい」

と言えずに、ご遠慮して。

とりとめなくも。
立ち止まったまま、です。
でも。
繊細さを見失わないことが、
生まれる時間を
伝え残すことにつながるのかもしれない、
と思いました。



・・・ケレドモ   ワタシタチ ノ ソンザイ ニ キヅイタノカ
ソノゴ  カレラ  ノ  スガタ  ヲ ミルコト ハ  アリマセンデシタ

小学生の息子と
生きものについてのテレビ番組を見ている、と。
「恋の季節がはじまりました」とか、
「いよいよ、誕生です」という話のあとに、
このようなことばが流れることがあるのですが。

このようなとき、
私は、テレビの画面に見入ってしまう。
息子は、どんな顔で、この話を聞いているのか。
それをちょっと眺めてみることも忘れてしまう。

生きものたちは、
ひそやかな自然を忘れてはいなくて。

やはり、繊細さは、糸口のようで。

そして、ほんの数秒、
スクープのかわりに映し出される、
静まりかえった光景は、
これから生まれようとするものを
深く深く包みこんでいるようで。

見とれてしまいます。






#お産の写真は、会報バックナンバー・「自分も生まれる旅とノムラノピアノ」などでご覧いただけます。
河野 有砂 かわの ゆさ 

2009年、助産院で子どもを産み、
以来、産むこと・生まれることについて、私感を書きはじめる。
助産師さん、妊産婦さんの協力により、お産の立ち会いも経験し、
産むこと・生まれることの味わいが導いてくれるもろもろについて、
私感を言葉と写真で綴る「自分も生まれる旅」を試みる。
NPO法人自然育児友の会会報に連載(ウェブ版 https://shizen-ikuji.org/blog/tabi/)。
東京藝術大学美術学部卒業。
著書「お産を楽しむ本 どこで産む人でも知っておきたい野性のみがき方」(共著、農文協)。

「生まれるとか死ぬということは、
それぞれの日常の中でしみじみと抱きしめるようなものだ、
と思うのですけれど、
いつのまにか、生まれることは死ぬことよりも遠くなってしまったような」
という思いの中、
2017年、作曲家、野村誠との試み「自分も生まれる旅とノムラノピアノ」をはじめる。

Yusa Kawano graduated Tokyo University of the Arts. She gave birth to a child at midwifery home in 2009. Since then, she began to leave essays and photographs about various thoughts inspired by giving birth and being born. In 2014 a book Osan wo Tanoshimu Hon. Doko de Umu-hito demo Shitteokitai Yasei no Migakikata (A book for enjoying childbirth. How to feel the wild nature in yourself.), co-written by Mariko Shiino, was published by Nousangyosonbunkakyoukai (Rural Culture Association Japan). She has since been watching childbirth carefully and gently, with the help of midwives and pregnant women. Her essays and photographs, Jibun mo Umareru Tabi (Meditation on Childbirth and your Re-birth) is serialized in Shizen-ikuji Tomonokai Kaihou (Newsletter of NPO Natural Mothering ).
In one of them is written, “Someone is born. Someone dies. I’d like to embrace the moments quietly but deeply through my daily life. But, away they slip, day by day, day by day...  The moments someone is born might be felt farther than the moments someone dies as if in a remote world.”
Afraid the moments would melt in the air, she held a slide show in collaboration with piano improvisation by composer Makoto Nomura at Café Slow in 2017, Jibun mo Umareru Tabi + NOMURANOPIANO.